あけの雲わけ 神道愛唱歌の世界

 神道文化会設立六十周年事業の一環として、昨年六月に音楽CD「あけの雲わけ神道愛唱歌の世界」を発行致しました。

あけの雲わけ〜神道愛唱歌の世界〜

はじめに

 昭和二十五年、神社本庁調査課・芸能委員会は、神社における音楽全般について調査を行い、譜集『神社音楽集』を発行しました。これは古典雅楽曲をはじめ、新作雅楽曲、神前神楽、洋楽調の神社音楽までを含むもので、祭典に演奏するにふさわしいと思われる音楽を可能な限り集めたものでした。さらに昭和三十三年には神社音楽振興会〈神社本庁内〉が、神社に関する唱歌を集めた譜集『神道愛唱歌集』を刊行しました。これらの譜集の刊行の目的は、氏子崇敬者の信仰的情操を高めるとともに、神社の祭典を音楽の面から一層森厳ならしめることにあったようです。
 神社における奏楽は、雅楽や祭祀舞の普及に伴い古典的な歌舞が奏されることが一般的となりましたが、神社本庁設立当初は、このように様々なジャンルの音楽を広く「神社音楽」として祭祀に取り入れようと努力した経緯があったのです。
 今日、青少年の情操教育の面から文部省唱歌等の見直しが図られていますが、神社界においても、氏子崇敬者の信仰的情操を音楽によって高めることは大切な営みであると思います。その意味において、神道文化会設立六十年を期して「神道愛唱歌」を現代的アレンジのもとに再演することは、記念事業として意義深いものと考え、企画しましたのがこのアルバムです。

曲目解説と歌詞について

1、川辺の祈り〜みそぎの歌インストルメンタル

2、天地のむた窮みなく〜神宮奉頌唱歌〜 昭和四年 文部省制定

 昭和四年、第五十八回神宮式年遷宮を機に、神宮の参拝・遥拝等、神宮奉頌のため合唱する曲として制定されたものです。歌詞については、神宮に対する至誠を披瀝する歌として、広く国民全体から求めるのが良いとのことから、内務省及び文部省で募集が行われました。そして一等作品を修正の上、同年九月四日に文部省告示にて発表されました。楽曲は東京音楽学校に委嘱して作曲されました。ここでは一番と三番のみ収録しました。

一、天地(あめつち)のむた窮(きわ)みなく 天津(あまつ)日嗣(ひつぎ)は栄えんと 御国(みくに)の基(もとい)建てませる 皇(すめら)御祖(みおや)のかしこさよ

二、千秋(ちあき)五百(いお)秋(あき)安らけく 瑞穂(みずほ)の国に幸(さち)あれと 御国(みくに)の民(たみ)を護(まも)ります 皇(すめら)御祖(みおや)の尊(とうと)さよ

三、神(かみ)路(じ)の山の弥(いや)高(たか)く 五十鈴(いすず)の川の弥(いや)遠(とお)く 天(あま)照(て)る光(ひかり)仰(あお)ぎつつ たたへまつらん諸共(もろとも)に

3、あけの雲わけ 臼田甚五郎作詞・越天楽今様

 昭和二十五年、設立間もない神社本庁は、独自の祭祀舞「朝日舞」と「豊栄舞」を制定しました。「豊栄舞」の歌として定められたのがこの曲で、越天楽今様の旋律に、本庁芸能委員であった臼田甚五郎氏が詞を付したものです。
 臼田氏の談によると、作詞にあたって最初に思い浮かんだ詞が「豊栄のぼる」という詞句で、これに表象される素朴な太陽信仰と神まつりの伝統を歌いこんだのが一章の歌詞であり、続く二節は、空襲で焼けた工場の廃墟の中に、草が真っ青に萌え出てゐた光景からイメージし、自然のなせる業、生命力そのものに神の出現を感じて作ったものだといいます。
  
一、あけの雲わけうらうらと とよさか昇(のぼ)る朝(あさ)日子(ひこ)を 神のみかげと拝めば その日その日の尊(とうと)しや

二、地(つち)にこぼれし草の実の 芽(め)ばえて伸びて美(うるわ)しく 春秋(はるあき)飾(かざ)る花見れば 神のめぐみの尊(とうと)しや

4、『明治天皇御製・昭憲皇太后御歌 国曲集』より  本居長世作曲

 明治天皇御製、昭憲皇太后御歌について、本居長世が作曲した『国曲集』から、神前で奉奏するに適すると思われるものを抜粋したものです。 作曲者の本居長世(明治十八年〜昭和二十年)は、宣長の養子となった大平の系統の子孫。祖父は国学者・歌人で大正天皇の侍講を勤めた豊頴です。

 音楽の道に進み、東京音楽学校を卒業後童謡作家として名を馳せました。代表作に「七つの子」「赤い靴」「十五夜お月さん」等があり、斯界では國學院大學校歌の作曲者として知られています。 明治天皇御製・昭憲皇太后御歌への作曲は昭和九年から始められ、翌年完成。同十四年に『国曲集』という表題で譜集が刊行されています。

1)あさみどり
 あさみどり澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな

2)さしのぼる
 さしのぼる朝日のごとくさわやかにもたまほしきは心なりけり

3)ちはやぶる
 ちはやぶる神のまもりによりてこそわが葦原のくにはやすけれ

4)とこしへに
 とこしへに民やすかれといのるなるわがよをまもれ伊勢のおほかみ

5)あまつかみ
 天つ神定めたまひし国なればわがくにながらたふとかりけり

6)めにみえぬ
 めにみえぬかみの心に通ふこそひとの心のまことなりけれ

7)なぎぬれば
 なぎぬればかくもなぎけり島山もこゆべくみえし沖つしらなみ

8)御製御歌朗唱曲

 この朗唱曲は、すべての御製・御歌のいづれを当てはめて奉唱しても語勢抑揚の上に些かの無理をも生ぜぬように作曲されたものです。今回は『国曲集』に例示されている二首の御製をこの曲に当てて歌いました。

国おもふみちにふたつはなかりけり軍(いくさ)の場(にわ)にたつもたたぬも 大空に風のふきあげし木の葉かと思ふばかりにとぶ小鳥かな

5、あさぼらけ〜神社の歌〜  作詞・作曲:尾沢孝喜

一、あさぼらけ ひびく太鼓は かみやしろ 春秋(はるあき)の みこしみかぐら 大(おお)まつり 年(とし)のはに ことほぎまつり もろ人(びと)が ひた仰(あお)ぐ かみのみのりのかしこしや
二、みひかりに 身(み)をねり わざをはげみあひ 夕(ゆう)されば 物(もの)をさまりて 安らけく 日に月に とよさかのぼり 人の世は ひたすすむ 神のちからのたのもしや

6、鳥 船

朝夕(あさゆう)に神の御前(みまえ)にみそぎしてすめらが御代(みよ)に仕へまつらむ

7、おもひたけびて〜みそぎの歌 川面凡児作歌

一、朝夕(あさゆう)に神の稜(みい)威(つ)に禊(みそぎ)する身はとこしへに真(まさ)幸(く)くありこそ

二、人の世をかためなすべく矛取(ほこと)りて祖先(みおや)の神は今も立たせり

三、天津(あまつ)神国津(かみくにつ)神(かみ)たちみそなはせおもひたけびて我(わ)が為(な)す業(わざ)を

8、かしこしや〜讃歌〜 阿留多伎弘作詞・井上武士作曲

 この曲は讃歌として、井上武士が作曲したものです。讃歌は神を称える歌で、祭典中に奉仕員、参列員一同で奉唱するために作られました。『神社音楽集』にはこの曲の他に雅楽調の讃歌数曲が掲載されており、「あけの雲わけ」も当初は讃歌として選定されたものであったようです。

一、かしこしや みたまのふゆをかがふりて 今日も生きゆく 嶮(けわ)しけれど強くあらなむ 塵(ちり)みてど清くあらなむ 捧げまつりて
二、尊(とうと)しや 大きみいつを 仰ぎつつ 今日も生きゆく 直(なお)日(ひ)のごと明(あか)くあらなむ ともどもに直(なお)くあらなむ 神の御名(みな)たたへまつりて

9、三輪の山もと〜和歌献詠曲〜 石塚寛作曲

 神社において和歌の献詠が多く行われていますが、一定した旋律のないことを遺憾とし、昭和二十五年、神社本庁芸能委員・石塚寛氏が作曲したものです。

一、我が庵(いお)は三輪の山もと恋(こい)しくばとぶらひきませ杉たてるかど
二、神垣の御諸(みもろ)の山の榊(さかき)葉(ば)は神の御前(みまえ)にしげりあひけり

10、高天原に照らします〜神宮奉頌歌〜 臼田甚五郎作詞・芝祐久編曲

 昭和二十六年、神社本庁では設立五周年を記念事業のひとつとして、神宮奉頌唱歌(昭和四年)と神社参拝唱歌(昭和六年)の歌詞を、構想を新たにしたものを広く募集しました。結果一等該当の作品はなく、本庁芸能委員であった臼田甚五郎氏が作詞したものです。ここでは一番と三番のみ収録しました。

一、高天原(たかまのはら)に照らします 大(おお)御光(みひかり)のあまねくて 四方(よも)の海原(うなばら)八面(やも)の地(つち) 草木も人も仰(あお)ぎつつ

二、大和(やまと)島根(しまね)の常(とこ)若(わか)に 青人(あおひと)草(くさ)のいやしげく ひろき御恵(みめぐ)み敷(し)きませる 御祖(みおや)の神をたたへつつ

三、この瑞山(みづやま)の神(かみ)路山(じやま) 絶えずさやけき五十(いす)鈴川(ずがわ) 伊勢の宮(みや)居(い)に神ながら 世を安かれと祈るなり

11、五十鈴の宮の大前に〜神嘗祭〜 明治二十六年 文部省制定

 この曲は明治二十六年に制定された「大祭祝日唱歌」の一つで、小学校における祝祭日儀式のために作曲されたものです。作詞は考証派国学者の木村正辞、作曲は宮内省伶人の辻高節。短いながらも雅楽調の厳かな旋律です。メロディーラインの美しさを感じていただくため、二回繰り返し、一回目は前奏として楽器のみで演奏しました。

五十鈴(いすず)の宮(みや)の大前(おおまえ)に 今年(ことし)の秋の懸(かけ)税(ちから) 神酒(みき)幣帛(みてぐら)をたてまつり 祝(いわ)ふあしたの朝日(あさひ)かげ 靡(なび)く御旗(みはた)もかがやきて 賑(にぎわ)ふ御代(みよ)こそめでたけれ

12、山田原の弥広く〜外宮奉頌歌〜 三宅武郎作詞・井上武士作曲

一、皇(すめら)御祖(みおや)の御心(みこころ)と 遠(とお)つ御世(みよ)より伝(つた)へつつ 斎(いつ)きまつらす外宮(とつみや)の 神の稜(み)威(いつ)のあらたさよ

二、朝(あさ)な夕(ゆう)ないただきて いのちいくべき五穀(たなつもの) 永久(とわ)に守らす豊受(とようけ)の 神の恵みのたふとさよ

三、山田の原の弥(いや)広(ひろ)く 度(わた)会川(らいがわ)の弥(いや)清(きよ)く 高きみかげを仰ぎつつ 讃(たた)へまつらむ諸共(もろとも)に

13、靖国神社の歌 細淵国造作詞・陸海軍軍楽隊作曲

 明治初年の東京招魂社御創建以来、靖国神社を歌った歌曲が、実に数多く作曲されています。その時代時代の人々が、英霊の静まる御社に常に心を寄せ続けていたことが、その背景にあったのでしょう。
 この曲は、主婦の友社が歌詞を全国に公募し、その当選作を陸海軍軍楽隊長に依頼して作曲し、昭和十五年に靖国神社に奉納したものです。奉納式には陸海軍軍楽隊の演奏により、上野音楽学校学生百名が合唱しました。同年の秋季臨時大祭、例大祭には祭典奏楽として演奏されました。

一、日の本の光に映(は)えて 尽忠(じんちゅう)の雄(ゆう)魂(こん)祀る 宮柱(みやばしら)太(ふと)く燦(さん)たり ああ大君(おおきみ)の御拝(ぎょはい)し給(たま)ふ 栄光(えいこう)の宮 靖国神社

二、日の御旗(みはた)断乎(だんこ)と守り その命(いのち)国に捧げし ますらをの御魂(みたま)鎮(しず)まる ああ国民(くにたみ)の拝(おろが)み称(たた)ふ いさをしの宮 靖国神社

三、報国(ほうこく)の血潮(ちしお)に燃(も)えて 散(ち)りませし大和(やまと)をみなの 清(きよ)らけき御魂安(みたまやす)らふ ああ同胞(はらから)の感謝(かんしゃ)は薫(かお)る 桜さく宮 靖国神社

四、幸(さき)御魂(みたま)幸(さき)はへまして 千木(ちぎ)高(たか)く輝(かがや)くところ 皇国(こうこく)は永遠(とわ)に厳(げん)たり ああ一億(いちおく)の畏(かしこ)み祈る 国(くに)護(まも)る宮 靖国神社

14、この静宮に鎮まりて〜神社参拝唱歌〜 藤岡好孝作詞・東京音楽学校作曲

 かねてより、学校生徒その他団体員が神社に参拝の際、斉唱すべき唱歌がないことを遺憾に感じていた全国神職会が、昭和六年に全国に向けて歌詞の一般募集を行い、一等入選作に東京音楽学校に依頼して曲を付したものが原曲です。翌七年には文部省の検定を経て、師範学校・中学校・高等女学校音楽科、尋常高等小学校唱歌科教師用及児童用教科書に掲載され、児童生徒の神社祭典参列時には、幣帛供進使の祝詞奏上の後に奉唱されました。
 昭和二十六年、神社本庁設立五周年記念事業の一つとして、先の神宮奉頌唱歌とともに、歌詞を新たに募集して改作したものが、今回収録したものです。

一、この静宮(しずみや)に鎮(しず)まりて 広くあまねきみめぐみを 吾(われ)らが上に垂(た)れ給ふ 神のみいづのたふとしや

二、神のまな子と生まれ来て 直(なお)く正しき人の道 あしたゆふべに踏(ふ)み行(ゆ)くも みたまのふゆの畏(か)しこけれ

三、この大前(おおまえ)に額(ぬか)づきて 清き明るきみ心を 今(いま)身(み)にしめて世のために いそしむ吾(われ)を守りませ

〜カラオケバージョン〜

15、御製御歌朗唱曲

16、神宮奉頌唱歌

17、神社参拝唱歌

演奏者一覧

ソプラノ:花見桂子 バリトン:松本 進 第一バイオリン:工藤美穂 第二バイオリン:小原直子 ビオラ:佐藤雅子 チェロ:井上とも子 ドラムス・和太鼓:和田 啓 ベース:吉岡誠司 ギター:長谷川友二 キーボード:荒木明子 十三絃筝:三宅礼子 十七絃筝:久本桂子 笛・篳篥・琵琶:稲葉明徳 笙:高原聰子 ボイス:東京SMC 合唱:ガールスカウト東京都第168団(高田葉希 須藤ふう子 和田志織 吉田真友佳 篠原真由子 春名杏梨 森山美波 斎藤由季 佐野萌衣 原田慈子 中村百花 鯨岡紗穂 宮島燦乃 森山菜々恵 吉田友里佳 春名梨花 上田りえ 佐野友紀 鯨岡知穂 森田晃世)

レコーディングスタジオ:サウンドシティスタジオ 東京都港区麻布台 平成19年2月28日〜3月2日

レコーディング&マスターリング:丹沢亜季

編曲:稲葉明徳 制作・著作:財団法人 神道文化会

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